raw

精神と肉体の展覧会

​co-program2019カテゴリーD 採択企画

「raw 精神と肉体の展覧会」

ダンサーと美術家のコラボレーションによる身体表現パフォーマンス「raw 精神と肉体の展覧会」が

2020 年 1 月 9 日(木)~12 日(日)の 4 日間、京都芸術センターで行われた。

そのパフォーマンスは、 「人間の生と死、肉体と精神の存在」という全ての者に共通する本質的なテーマを題材にしたもの。

彼ら がかかげる“raw=生、生身”による圧巻のパフォーマンスが毎夜繰り広げられた。

京都芸術センターは、かつて小学校として、多くの子どもたちが学び、巣立っていった場所。

その建物 の講堂として使われていた空間が、今回の会場である。

公演開始 20 分前、会場に足を踏み入れると、 中央の縦長のステージの中央に首を傾げ、椅子に腰かける、

髪の毛から両足の爪先まで全身赤っぽい 人の姿が見える。

白いシートに覆われたステージ上には、黒い衣装を着、横たわる女性や黒い布をのせ た大小二つの塊がある。

公演開始のアナウンスとともに、会場は暗くなり、静かに音楽が流れ始め、

ダンサーと美術家の共同制作による“生身”を使った身体表現パフォーマンスが始まった。

ステージ中央では、終始首を傾げた女性が無言のまま椅子に腰かけ、時折、足元の円筒状の容器に 手を伸ばす。

その手は、赤や黄、白の絵具を手のひらに掬い、自らの頭や顔、身体に塗り重ねていく。

ステージ上やその周囲を黒服の 5 人の男と 2 人の女が、うごめき、からみあい、走り、跳ね、動かされ、 止まる。

一言も言葉を発することなく、ただひたすらに繰り返す。

最後に、絵具を纏う女性と 7 人の男女 の肉体が交わり、幕は閉じられた。

今回、この作品を企画したのは、振付演出家やダンサーとして活動する庄波希と

全身に絵具を纏うパフォーマンスを展開する美術家の新宅加奈子、

関西を拠点に国内外を問わず活動する二人のアーティストだ。

私は癌と診断された入院生活の中で身体よりも心が先に死に向かいだすことを知った。

私は家庭環境が原因で裸になって絵の具を纏うまで生きていることを知らなかった。

私達にとって死が待ってくれている事はとても安心できる事だった。

死ぬ為にこの身体と共に生かされている。

死ぬ為にあるこの身体をどう使うのか。

精神と肉体の可能性を信じ、身体を動かし、他者を纏う。

その渦中で、あの時とは違う「死」を覗ける気がしてならないのだ。

私達はまだ、生きている事を知らない。

-“「raw 精神と肉体の展覧会」 ステートメント”より抜粋

このステートメントにあるように、二人には、偶然にも同じような体験や問題意識があった。

そのことが、 今回の企画の出発点となった。

その体験や問題意識を一個人のものとして留めるのではなく、

現代に生 きる我々人間の「生と死、肉体と精神の存在とは何か」いう普遍的なテーマとして問うた。

この世に命を授かった者誰しもが必ず迎える「死」。

死に向かう有限のものであり、不可思議で得体の しれないもの、

だからこそ、その「生」は、尊く、美しい。彼らの「生=raw」の姿が、私たちにそのことを想起 させ、揺さぶる。

1時間半におよぶパフォーマンスを終えた彼らが見せた、心の奥底から溢れ出る、爽やかな笑顔。

こちらの心まで洗われる素敵な笑顔だった。

ダンサーと美術家の共同制作による“生身”を使った身体表現パフォーマンスという、

彼らの類まれなる パフォーマンスのさらなる飛躍に、これからも注目していきたい。

  宇都宮 壽   

学芸企画員

主幹学芸員

​大分県美術館